

- AutoCAD(LT)図面に座標を設定して任意の位置の座標値を取得したい。
- 既知点2点を利用して図面全体の座標を正しく設定したい。
- 数学座標系で作図されているAutoCAD(LT)図面の座標系を測量座標系に変更したい。
- AutoCAD(LT)図面上にプロットした任意点(測点)の座標値をエクセルなどの外部ソフトに一括で書き出したい。
この記事では、実際にAutoCAD図面と2つの既知点を用いて座標設定を行うケースを通して、上記のような疑問点を解決していきます。
AutoCADというのは、もともと電子部品や精密機械といった分野においてシェアを占めていたCADアプリケーションということもあり、建築や土木の分野においては、別のCADソフトが主流とされていました。
しかし、大手のゼネコンが建築設計の分野でAutoCADを取り入れるようになったことで、土木の分野においてもAutoCAD(LT)が広く使われるようになってきました。元請け業者から配布される図面が、.dwg(AutoCADのファイル形式)形式で配布されることも多くなってきています。
そこで困るのが、図面からの座標値の取得です。土木向けCADソフトの多くは、もともと測量座標によって作図されており直感的な操作で簡単に図面から座標取得できますが、AutoCADは数学座標で作図されているため、図面にひと手間加えてあげる必要があります。それでも、一度設定してしまえば、あらゆる面においてAutoCADはとても便利なので、是非トライしてみてください。
AutoCADで2つの既知点を利用して図面に座標値を設定する方法
0.この記事で使用する図面と座標値について
この記事では、以下のような図面と座標値を使用します。
図面には、あらかじめNo.1とNo.7の図面上の位置が与えられており、また、それぞれに座標値が与えられているケースで考えます。
1.単位の管理をする
まずは、単位の設定を行います。
「形式」メニュー>「単位管理」で以下のように設定します。
・精度:0.000(mmまで表示される) ・挿入尺度:メートル
※土木図面で座標値を取得する必要がある場合は、メートル表記にすることがおすすめです。
2.この後の作業をしやすくするためにだいたいの縮尺を合わせる。
最後に座標値を用いて正確な尺度の設定を行うため、現状で尺度が大体合っている場合はここの操作は省略しても大丈夫です。
この図面の場合は、mm単位で作図されているため、m単位に合わせたいのでとりあえず1/1000(0.001)倍します。
「修正」メニュー>「尺度変更」で以下のように入力します。
オブジェクト選択⇒Enter⇒基点を指定⇒適当な箇所をクリック⇒尺度入力
0.001⇒Enter
3.測点ブロックを作成する
まず、測点ブロック用のレイヤーを追加します。
次に、測点ブロック用の文字スタイルを作成します。
「形式」メニュー>「文字スタイル管理」
フォントは、好みの字体で作成(ここでは、メイリオを使用)すれば大丈夫です。
続いて、測点ブロック用の属性を定義します。
まず、平面図の枠外の邪魔にならないところに、「円」コマンドで半径1の測点用の円を描きます。
円を描いたら、円に属性を定義します。
「作成」メニュー>「ブロック」>「属性定義」
以下のように属性を定義して、「画面上で指定」にチェックを入れて「OK」をクリック。
「文字高さ」については、だいたい円の半径と同じくらいすれば収まりがよくなります。
属性定義プロンプトを閉じると、属性値の挿入点を指定するように要求されるので、適当な場所を指定します。
属性定義が完了したら、ブロック定義で測点用ブロックを定義します。
「作成」メニュー>「ブロック」>「ブロック定義」
ブロック定義ウインドウが開いたら、まず「オブジェクトを選択」で測点用の〇(円)と属性(No.)を選択して登録します。
ブロック定義ウインドウに戻るので、以下のように入力してOKをクリックします。
最後に、挿入基点を指定と要求されるので、オブジェクトスナップモードを中心に設定(shift+右クリック)し、円の中心をクリックします。以上で、測点ブロック完成。
4.既知点に測点ブロックを挿入
測点用ブロックの定義が完了したら次は、実際に定義したブロックを挿入します。
「挿入」メニュー>「ブロック」
ブロック挿入ウインドウが開いたら、挿入位置を「画面上で指定」にチェックを入れて、既知点の中心に合わせて挿入する。
属性編集画面が表示されるので、測点名を入力します。
なお、測点ブロックを挿入したら、点は削除しておきます。
5.1つ目の既知点の座標に併せて図面全体を移動する
次は、一つ目の既知点(ここではNO.1)に合わせて、「移動」コマンドで図面全体を移動します。
まずは、「移動コマンド」で図面全体を選択します。
基点を選択で、No.1の中心を選択します。
続いて、移動先の座標値を直接入力します。(絶対座標の場合は、先頭に#を入力する必要があります)
測量座標と数学座標では、XYが反転するため、#341.165,31.711とX座標、Y座標を反対にして入力します。
6.2つ目の既知点の座標値に点を作成する
標準の点だと小さすぎて、どこにあるか認識しづらいので「形式」>「点スタイル管理」で好みのデザインを選択します。
点スタイルの定義が完了したら、「作成」メニュー>「点」>「単一点」から、2つ目の既知点の座標値(# 457.393,76.749)を入力して点を作成します。
(点を選択して、オブジェクトプロパティウィンドウで座標値を確認して、正しい位置に点が作図されているか確認してください。※オブジェクトスナップをオンにしていると座標値と別の位置に作図されていることがあるため、オブジェクトスナップはオフにしておいてください。)
7.2つの既知点から図面を回転させて、図面の角度を合わせる
まず、「回転」コマンドを実行して、オブジェクト全体を選択します。
shift+クリックで2つ目の既知点を選択し、2つ目の座標値で作成した点だけ選択を解除して、Enterで選択範囲を確定させます。
基点を指定と要求されるので、一つ目の既知点の中心(No.1)を選択します。
続いて、コマンドラインでR(参照) を選択します。
回転角度を指定で1つ目の測点(No.1)を選択します。
次に2つ目の測点(No.7)を選択します。
最後に、「新しい角度を指定」と要求されるので、2つ目の既知点の座標を持たせた点を指定します。
以上で、図面の角度合わせが終了です。
8.縮尺を再度指定する
角度を合わせた図面の座標をオブジェクトプロパティで確認すると数mmずれている場合がります。その場合は、「縮尺変更」コマンドの「参照」機能で再度正しい縮尺に合わせる必要があります。
「縮尺変更」コマンドを実行して、オブジェクト全体を選択します。「回転」コマンドの時と同様に、 shift+クリックで2つ目の既知点を選択し、2つ目の座標値で作成した点だけ選択を解除します。
基点を指定で、一つ目の既知点(No.1)を選択します。
「回転」コマンドの時と同様に、コマンドラインでR(参照)をクリックして選択します。
「参照する長さを指定」と要求されるので、で1つ目の測点(No.1)を選択します。
続いて、2つ目の測点(No.7)を選択します。
最後に、「新しい長さを指定」と要求されるので、2つ目の既知点の座標を持たせた点を指定します。
以上で、尺度合わせは完了です。座標値を用いて縮尺を合わせることで、1mmの狂いもなく縮尺を合わせることができます。
9.測量座標系に合わせる
ここまでの状態でも、X座標とY座標を読みかえれば座標の取得が可能ですが、
AutoCADではユーザー定義でオリジナルの座標系を設定することでができます。この機能を利用することで、X座標とY座標を読みかえることなく測量座標系通りの座標設定が可能です。
9-1.傾いた図面をもとの角度に合わせる。
現状のままだと、図面が傾いた状況です。
座標系(座標アイコン)を一時的に傾けてプランビューという機能を使うことで、座標値を合わせた状態で元の傾きに戻すことが可能です。ただし、ここでの座標の軸回転は図面の傾きをもとに戻すためだけの操作なので、必ず最後にワールド座標に戻すことを忘れないでください。
まずコマンドラインで、UCSSELECTMODE>0>Enter と操作をします。
(これは、UCSアイコンをグリップ操作でコントロールできるかどうかの設定で、この操作をしておかないとこの後の処理が上手くできません。)
「ツール」メニュー>「UCS」>「Z軸回転」
続いてZ軸の周りの回転角度を指定で、図枠の左下を選択します。
次に、2点目を指定で、図枠の右下をクリックして選択します。
以上で図のように傾いたユーザー座標系になります。
最後に、見た目だけを回転させるプランビューというAutoCADの機能を使って図面の角度をもとに戻します。プランビューを使うと、座標系のX軸方向が水平になるように図面の見た目だけが回転するということがポイントです。
「表示」メニュー>「3Dビュー」>「プランビュー」>「現在のUCS」
図面が元の水平な状態にもどります。(見た目上)
最後に、図面を水平にするために回転させた座標系設定をワールド座標系に戻します。ここでワールド座標系に戻しておかないと、見た目をもとに戻すために座標系を傾けたことで座標値がずれてしまっているので必ず忘れずに行ってください。
コマンドライン UCS>Enter>w>Enter
以上で完成で、実際に図面から座標値を取得することが可能ですが、測量座標系と比較するとまだX座標とY座標が反転しているため、自分で読みかえる必要があります。
9-2.測量座標系に合わせる。
数学座標を測量座標に対応させるためには、以下の2つの操作が必要です。
①「ツール」メニュー>「UCS」>「Z軸回転」>90> Enter でまずZ軸方向に図面を90°回転させます。
②続いて、「ツール」メニュー>「UCS」>「X軸回転」>180> Enter でX軸方向に図面を180°回転させます。
以上で、X座標とY座標ともに測量座標系と一致します。
オブジェクトプロパティで確認してみてください。
最後に、「ツール」メニュー>「UCS管理」で作成した座標系を「測量座標系」として保存しておくと、いつでも呼び出すことが可能です。
9-3.編集画面と座標取得画面を切り替える。
以上で図面の座標設定は完了ですが、上記で設定した測量座標のままだと、編集した際に文字が傾いて表示されます。
編集をする時は、ビューモードに切り替えることで通常通りの編集ができます。
「ツール」メニュー>「UCS」>「ビュー」
以上でAutoCAD図面の座標値設定が完了です。
座標取得が必要な場合は、測量座標系に切り替えて使ってください。UCS管理を使えば、上記で設定した測量座標系へ簡単に切り替えることができます。
AutoCADで図面から座標値を取得する方法
10.座標値を書き出す
AutoCADでは、属性付きブロックで定義した測点の座標をエクセルに書き出すことが可能です。
ブロックに属性を持たせることで、測点ブロックのみを抽出することができます。
「ツール」>「データ書き出し」
データ書き出しを新規に行うにチェックを入れて「次へ」をクリックすると、「データ書き出し設定に名前を付けて保存」ダイアログボックスが開くので、適当な名前を付けて「保存」をクリックします。
続いて、データソースを「図面/シートセット」にチェックを入れて「次へ」をクリックします。
「属性を持つブロックのみ表示」にチェックを入れると、測点ブロックだけが表示されるので、「測点」にチェックを入れて「次へ」をクリックします。これは、測点用のブロックを作成した際に「属性定義」を行っていたため、ここのリストに表示されています。
続いて、書き出しを行うプロパティの選択画面が開くので、まず①分類フィルタの「ジオメトリ」「属性」にだけチェックを入れます。次に、②プロパティの「NO(属性)」「位置X」「位置Y」にだけチェックを入れて「次へ」をクリックします。
実際に書き出しを行うデータが表示されるので、「数量列を表示」や「名前を表示」など必要のないものはチェックを外します。
ここで注意すべきことは、X座標とY座標の値です。AutoCADの図面上では測量座標系をオリジナルで定義しましたが、AutoCADで書き出しを行う際はユーザー設定の座標系は反映されず、ワールド座標系に沿った座標が書き出されてしまいます。
右クリックで列の名前を変更して、X座標とY座標の名前を反対にするだけで、簡単に測量座標系に沿った座標値を書き出せますので忘れず変更しておいてください。
最後に、出力オプションが開くので、「データを外部ファイルに書き出す」にチェックを入れて、図の赤枠の部分をクリックすると保存先を選択すことができます。
書き出したファイルを開くと以下の内容となっています。これで、AutoCAD図面からの座標値の取得が完了です。
測量計算を行う
実際に建築や土木の現場において位置だしなどを行うためには、AutoCADで取得した座標を使って測量計算を行う必要があります。
以下のExcel測量計算ソフトを利用することで、誰でも簡単に測量計算が行えるのでぜひ検討してみてください。
ドロップダウンリストから選択するだけ
- キャンペーン価格:980円(税込み)
- ドロップダウンリストから選択するだけで測量計算ができる
- 座標リストを簡単に印刷して配布可能
- ソフトの詳しい説明はこちら
体系的にCADスキルを身につけるためには?
この記事では、AutoCADの使い方のひとつについて説明してきました。しかし、求めているCAD関係のテクニックやノウハウというのは、インターネットや専門書を探してもなかなか見つからないというのが現状です。
もっと体系的に最新のCADスキルを学ぶためには、通学制、通信制を問わずCAD講座を受講することがおすすめです。以下の記事では、おすすめのCAD講座の一覧を紹介しているので是非参考にしてください。
まとめ
大変長い記事なりましたがいかがだったでしょうか?
もう一度まとめると、AutoCAD図面に座標を設定するためのステップは以下のようになります。
①測点ブロックを作成する⇒②既知点に合わせて図面を移動する⇒③図面を回転させる⇒④縮尺を合わせる⇒⑤見た目を水平に戻す⇒⑥座標アイコン(座標系)を回転させて測量座標系を定義する⇒⑦必要に応じて座標をエクセルなどの外部ファイルに書き出す
少し複雑なように感じますが、慣れてしまえば短時間で簡単に設定できるようになります。ぜひ試してみてください。
別の話になりますが、土木や建築の現場でAutoCADを使っている場合は、AutoCAD LT CALS toolsという電子納品形式に対応した専用のAutoCADのバージョンやオプションもあります。本格的に現場へのAutoCADの導入を考えている場合はAutoCAD LT CALS toolsの導入を検討してみてください。
また、実際に図面から取得した座標値を用いて基準点測量を行いたい場合はこちらの記事を参考にしてください。
この記事の執筆者
